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help RSS Kamio Gallery No.94 アンソニー・ヴァン・ダイク 1993/8/9

<<   作成日時 : 2005/04/04 14:41   >>

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夏休み後半に、ひさしぶりにあちこちの美術展に出かけてみたので報告。

まず、終わってしまったけど7月に行った展覧会、三越美術館の「グルノー
ブル美術館展」です。サブタイトルが「アングルからマチスまで」という
ことで、新古典/ロマン主義からフォーヴィズムまでの絵を持ってきてくれ
ていました。グルノーブルは、南フランス、リヨンとニースのあいだくら
いにある地方都市です。フランスは、ナポレオンの芸術振興政策で地方美
術館が作られ、どこの地方美術館も充実したコレクションを持っています。
その地方の出身の画家をきちんとフォローしているのも特徴でしょう。グ
ルノーブルはドーフィネ地方に位置しますが、ここに前期印象派の時期に
ドーフィネ派と呼ばれる風景画を得意とする画派が生まれます。このあま
り知られていない画家たちの絵を収集しており紹介してくれていました。
ほかにも地域ゆかりの画家も紹介してくれていました。バルビゾン派のア
ルピニーはドーフィネ派のアシャールの弟子だったというし、アンリ・ファ
ンタン=ラトゥールはグルノーブル出身、ヨンキントは晩年この地方で制作
したそうです。このようなご当地画家の紹介のような企画はいいですね。

展示のなかでよかったのは、やはりこのところ気になっている新古典/ロマ
ン主義の絵画でした。ドラクロワの《聖ゲオルギウス》(1854)ですが、鎖
で岩に繋がれた美女を助けるために、英雄が槍を持って海獣に挑みかかる
という場面はいろいろな文学に用いられているようですね。この絵はアン
グルの《アンジェリカを救うルッジェーロ》(1819)に刺激を受けて描いた
作品だといわれています。かなり荒い絵で下絵のように思われます。ドラ
クロワの絵はもともと筆使いが荒いのでよくわからないのですが、この絵
は横50cmくらいの小さな絵で、アングルの作品があれだけの大作ですから、
本作が別にあるのかもしれません。いずれにしろ、劇的な場面なのですか
ら、新古典主義でどちらかというと静的な画風のアングルが描くよりも、
ロマン主義のドラクロワに適したテーマのように思えます。たしかに、振
り返ってみるとアングルの絵のポイントは、アンジェリカの美しさであっ
て、場面の緊張感や躍動感が目的ではないですね。それに対し、このドラ
クロワの絵は海獣にまさに槍を突き立てようとしている英雄の動き、英雄
の乗っている馬の動きがクローズアップされていて、救われる美女のウェ
ヌスは中景に下がり、顔もはっきりとは描かれていません。同じテーマの
絵で比較すると同時代の2人の画家の違いがはっきりしてきます。おなじ
時期にこの2つの絵が観られてよかったです。

また、ロマン主義の画家ですが、あまり知られていないギュスターヴ・ド
レの《雷雨後のスコットランドの湖》(1873)は、インパクトありました。
ある漫画で引用された聖書の挿画で知った画家なんですが、恐怖を畳み掛
けるようなしつこさがあるんですね。この風景も、不気味な襞を持つ山肌
がどこまでも続き雲の中に溶けていってしまうという壮大な絵でした。ダ
ヴィッドやシャセリオーといったところもよかったですね。

あと、それ以降の絵でインパクトがあったのはモーリス・ドニの《ガラテ
ア》(1917) です。印象派以降の画家でギリシア神話を引用する画家はあま
り見られないし、ドニはどちらかというとカトリックの信仰をテーマにし
た絵が多いので不思議です。絵は、海水浴場で楽しむ彼の妻と家族という
ことです。ところが、遠景の断崖の上に笛を吹くキクロプスが小さく描か
れているのですね。ギリシア神話にはポリュフェモスという一つ目巨人キュ
クロプスが海の女神のガラテアに恋をするという悲劇があります。ガラテ
アは当然醜いキュクロプスには心を開くことはせず、最後にその恋人を恨
みのつのったポリュフェモスに殺されてしまうんですが、ドニは自分の愛
する妻や子が幸せに楽しんでいる風景に何を感じたのでしょうね。自分の
幸せの絶頂感に恐怖のようなものを感じたのかも知れないですね。印象派
以降でギリシア神話をテーマにしたのは象徴主義のモローやルドンです。
ルドンの《キュクロプス》(1900) が眠っているガラテアを優しく見つめて
いるという場面を描いた有名な美しい絵ですが、これを思い出しました。


さて、長くなってしまいましたが、夏休みに行った美術館を紹介します。
まず八王子の東京富士美術館へ行ってみました。宗教法人というのは金が
あるんだなあというのが最初に思ったこと。日本で同時代に絵を買った人
は印象派の時代の松方さんだけで、あとは高額な値がついてからの絵を集
めているんだからしかたありませんが。この美術館の西洋絵画のコレクショ
ンは非常にバランスがよくて、ほんとうによく集めたもんですといった感
じ。常設展示では、なぜか印象派の展示を重視していて、ルネッサンスか
らバルビゾンをあまり展示してくれていませんでした。所蔵品カタログを
見ると、ルネッサンスから新古典/ロマン主義までのコレクションでは、キー
となる画家は押さえていてかつ駄作がないんですね、もっとたくさん見せ
てほしかったです。今回の Gallery は、この展示のなかからの展示です。

画像


 アンソニー・ヴァン・ダイク
 《アマリア・フォン・ソルムス=ブラウンフェルズの肖像》(1629)
 東京富士美術館蔵


ヴァン・ダイクは、フランドル地方アントワープ生まれの画家で、10代
に一人前の画家として認められていたという天才だったようです。当時ア
ントワープには20歳年上の巨匠ルーベンスがおり、まずは彼の弟子とな
り彼の絵の背景を描いたり、下絵から完成作を描いたりしていたそうです。
お隣のネーデルランドにはヴァン・ダイクよりももう少し遅れてレンブラ
ントが出て、フランドル・オランダのバロックの全盛期という時代ですね。
まあ、アントワープは2人の天才が活躍するには狭すぎたようで、ヴァン
・ダイクは後にイギリスに渡り、おもにイギリス宮廷の肖像画家として活
躍をするようになります。彼がイギリスの画段に与えた影響は非常に大き
く、イギリスではレイノルズやゲインズボロをはじめ19世紀まで彼の肖
像画の手法が引き継がれていくことになります。

この絵は、ヴァン・ダイクがオランダに赴いたときにオランダ総督の妻を
描いた肖像だそうです。彼の肖像画は一般に荘厳で、描かれるモデルが女
性や子供でも堂々としていて風格を感じさせます。それは、彼が肖像画に
満足していなかったからだといわれています。当時、絵画として最も価値
が置かれたのは聖書や神話の物語から画家の構想力によって作成しなけれ
ばならない荘厳な歴史画で、師であるルーベンスはこの分野で成功を収め
ていました。ヴァン・ダイクも歴史画を志していたのですが、イギリス宮
廷は肖像画しか描かせなかったわけで、欲求不満に陥っていたことでしょ
う。ですから、彼は肖像画の中のモデルの衣装や背景などを凝ったり、ポー
ズや人の配置も工夫して、単なる肖像画ではなくあたかも歴史画のなかの
ひとりの人物としてモデルを描いていたのでしょう。この様式は、イギリ
ス画段では肖像画の形式としてレイノルズやゲインズボロに引き継がれ、
グランドマナーとして確立します。

そんなこともあってか、ヴァン・ダイクの肖像画は、ときに冷たくてとっ
つきにくい感じを受けるのですが、この絵はそれがなくて親しみがわきま
す。モデルのポーズはそれなりにいかめしく、画家のほうに顔は向けずに
視線だけを向けているのですが、その大きな目がなにかいたずらっぽくて、
口元も少し微笑んでいるように見えるからでしょう。モデルの若さが際だっ
ています。色調も落ちついていて綺麗な絵に仕上がっており、観ていて飽
きない絵になっています。

さて、東京富士美術館の展示に話を戻しますが、ほかにはブーシェのロコ
コ絵画、ナティエの肖像画、ロイスダール、ジェリコー、ブーグロー、コ
ロー、ミレーといったところが展示されていました。わりと狭い部屋でし
たがまんなかにソファーが置いてあったのでゆったりと観られました。こ
のあいだの「ラ・ミューズ」ミュンヘン美術館で、フラゴナールの軽薄な
絵を観てちょっとびっくりしたのですが、宮廷画家ブーシェの《田園の気
晴らし》もけっこう軽薄だなあと感じました。やっぱりロココ絵画は感覚
的でいいよなあと思います。残念だったのは、昨年のレンブラント展に出
品されており、好きな絵のホーファルト・フリンクの《犬
を抱く少女》はここの所蔵なのでもういちど見たかったけれど飾ってなかっ
たんですよね。その他ロココでは所蔵していながら飾っていなかったシャ
ルダン、フラゴナール、ルブラン、コワペルあたりもいつか観たいもので
す。企画展示で面白いものがあったらまた行ってみようかと思います。

長くなってきたので、次の記事に続きを書くことにします。

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